ゆるアーツジャーナル

ジャズ/アーツマネジメント/日々感じることを綴っています。

2010年代のジャズ: 新しい表現への挑戦・公平性

ニューヨークタイムズに掲載されたThe Decade in Jazz: 10 Definitive Moments
ジャーナリストであり、音楽評論家でもあるGiovanni Russonelloが語る、2010年代のジャズ界の動きについての記事。2019年も終わりが近づく今、過去10年を振り返って現代ジャズの在り方、今後の向かうべき方向を考えるきっかけとなる内容だった。

 

 記事中に挙げられた出来事としては、

  1.  2011 Esperanza Spaldingがグラミー賞最優秀新人賞に輝く 
  2.  2011 Nicholas Paytonによる#BAMの発言から発展した、"Black American Music"についての議論

  3. 2012 Robert Glasperのアルバム"Black Radio"から始まるジャズの新しい時代
  4. 2014 フリージャズの先駆者Ornette Colemanの業績を称えるフェスティバル
  5. 2014 Vijay Iyerによる初のジャズに特化した博士課程のプログラムが、ハーバード大学で設立される
  6. 2015 Kamasi Washingtonがアルバム"The Epic"をリリース
  7. 2017 最古のジャズフェスNewport Jazz Festivalに新しい風/Snarky Puppyによる最新のジャズフェス
  8. 2017 社会の変革を望む女性ミュージシャン達による#MeTooムーブメント
  9. 2018 ExperimentやAvant-gardeのライブシーンを支える"The Stone"が新天地に移動
  10. 2019 Jason Moranが新しいジャズの表現に挑む

 

もちろん10年間で起きた出来事を10項目にまとめるということは難しい。でも、こうして項目を見ていると「ジャズの新しい表現への挑戦」と「ジャズ界の公平性を問う」という二つの大きなテーマが浮き上がってくる。

 

ジャズの世界だけでなくアメリカの文化・芸術の世界では、文化政策の取り組みでEquity(公正)を取り入れることが課題とされている。Americans for the Artsによると、Equityの定義は

Cultural equity embodies the values, policies, and practices that ensure
that all people—including but not limited to those who have been historically underrepresented based on race/ethnicity, age, disability, sexual
orientation, gender, gender identity, socioeconomic status, geography,
citizenship status, or religion—are represented in the development of
arts policy; the support of artists; the nurturing of accessible, thriving
venues for expression; and the fair distribution of programmatic,
financial, and informational resources. -(Americans for the Arts "Cultural Equity")

 

文化的公平性とは、歴史の中で人種/民族性・年齢・障害・性的指向・性別・社会地位・宗教などの理由で対等な評価をされてこなかった人々を含む全ての人間が同じ土俵に立つことを可能にするアーツポリシーの一環として重要視されている。「全てのアーティストが平等なサポートを受けられること・全ての人が芸術・文化へアクセスできること・芸術的表現の場/べニューがあること・平等な資金と情報の分配があること」これらを実践できるArts Worldが理想とされている。

 

アメリカで「Women in Jazz Organization」や「Washington Women in Jazz」などの女性のエンパワメントをミッションに掲げる団体、「Jazz Power Initiative」や「Jazz Arts Charlotte」などジャズ教育をサポートする団体があるように、ステータスやアイデンティティを越えた表現の場・芸術に触れあう場を提供することが求められているのは一目瞭然。

私が大学院の論文で扱ったケーススタディの中に、「Jazz4Justice」という団体がある。2002年に設立されて、若いジャズミュージシャン達の学費援助と市民の法的援助をサポートするというミッションを掲げる。これは、ジャズと法律のような一見無縁に思えるジャンルの中に「正義」「公平性」という共通点を見出してマイノリティを支援している例。

 

Justice(公平)を問うということは、ジャズの世界だけでなく世界全体で行われていることであり、今後も引き続き重要な課題とされていくだろう。

 

ニューヨークタイムズのランキングでは触れられていなかったが、ケネディーセンターの元アーティスティックディレクターだったDr. Billy Talorに次いで、ジャズピアニスト・作曲家・教育者であるJason Moranが選ばれたことも大きな節目の1つだったように思う。この引継ぎにおいて、彼の革新的な作曲や冒険的なインプロビゼーション、そしてジャズの歴史への深い尊敬心と理解がこのポジションへの決めてとなった。当時、37歳であったMoranはMacArthur Fellowshipフェローの一人であり、Kennedy Centerという大きな組織での活動を通してジャズの新しいオーディエンス、若い世代にも影響を与えることが出来るだろうという期待が込められていた。

 

Jason Moranが取り組んできた数多くのプログラムのなかに、ジャズとスケートボードの即興セッションというのがある。これはMoran自身が来日して、今年の冬に日本でも行われた企画。「SKATEBOARDING」は記事中にあるように、一見ジャンルの違う二つのカルチャーの創造性・身体性・即興性を通じて双方の魅力に触れてもらい、新たな化学反応を起こしたいという面白い企画だ。

 

これから始まる2020年代。どんな新しいジャズが生まれ、ジャズミュージシャンを取り巻く環境がどう変化していくのかに着目していきたい。