ゆるアーツジャーナル

ジャズ/アーツマネジメント/日々感じることを綴っています。

アートを取り巻く環境

Howard S. Becker 著書の「Art Worlds」です。

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Becker氏は現在89歳でシカゴ大学を卒業したアメリカの社会学者です。もともと1982年に書かれた本ですが、25年記念ということで2008年に加筆をして再出版されたものを読みました。社会学の博士号という肩書を持ちながら、ピアノもプロ並みに弾ける彼は、音楽に限らず幅広いアートの世界を分析しています。

アーツマネジメントという学問を勉強するにあたって、特に気にするようになったことは、その本や記事がいつ・だれによって書かれたのかです。どの分野でもそうですが、特にアメリカでは人種・宗教・立場によって、意見が偏っていることが多々あるからです。

この本の場合は、アメリカ人で白人、社会学者、そして比較的高い地位の著者によって書かれた本ということになります。

約400ページあるこの本では、アーティストを軸としたアートの世界には編集者、消費者、供給者、寄付者、批評などあらゆる人や事が関わっていて、常にinvestigate(事象や問題における真実や原因を究明しようとする)しているコミュニティが存在する、ということを言っている。

逆にアートの無い世界とはどういうものなのか。。

絵も歌も踊りもない。日常にアートがなければ、「無」になってしまうのではないかと感じるくらい、アートは私たちの生活に密接しています。

Becker氏は、誰がアートをアートだと認識するのか、その価値は誰がつけるのか、アーティストは観客のウケをねらって作品を作るべきなのか、この社会でのアーティストと作品の在り方を模索しています。

この答えには正解も間違いもありません。

 

高校生の時に、私の演奏は「一般受けしない」と言われたことがありました。オーディエンスにウケるスタイルで演奏するか、自分のスタイルを突き通すかはアーティストの選択です。

知識の無いひとたちが好むアートと、その分野を専門とするアーティストが追求するアートにギャップがあることは多々あります。それは、絵画でもダンスでも音楽でも起こりえることなのです。

そのギャップをいかにしてつなぎとめるのか、新たなコミュニティー形成のために役立てることができるのか、それを実現させることができるのがアートマネジャーだと思っています。

 

答えのない、このArt Worldの実態を究明しつづけるのがアーティストとその周りの人々です。この問いを社会学の視点で分析している、とても面白い本でした。

 

どこでも仕事ができるということ

Nikil Saval著書「Cubed: The Secret of the Work Place」という本を読んだ。アメリカの職場が1980年代から現代までどのように変化してきたのかを描いた本。
普通の人だったら気にも止めない、職場の歴史について書くなんて視点が面白いなと思って選んだ本だった。

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本のタイトルにある「Cubed」というのは、オフィスにある一人ひとりが仕事をする、仕切られたせまい空間のこと。私は、そのようなオフィスで仕事をしたことが経験がないのでよく分からないけど、自分がオフィスワークをすることになったら息が詰まってしまうかもしれない。

そもそも、なぜこのようなオフィス形態が生まれたのかというと1890年頃は電話もパソコンも無い時代。全ての作業を紙で行っていて、会議があれば直接顔を合わせるというのが当たり前。ボスのすぐ横には事務を担当する社員が並んで仕事をしていた。時代が進むにつれて、タイプライターから電話やパソコンへと便利な道具も増えた。ビジネスも拡大したため、より多くの社員を必要とし、エレベーターができて建物自体も高くなっていったのです。

より多くの社員を効率よく部屋に詰め込むため、そして各自のプライバシーも確保するために「Cubicle」というスペースが生まれました。

現代でもそのようなスペースで仕事をしている会社はありますが、家やカフェ・公共のワーキングスペースにて仕事を行っている人も増えていますよね。そして、国がちがってもメールやスカイプなどで仕事を一緒にすることができます。アメリカに住んでいる私がいま実際にしている仕事は、取引先が日本とイギリスです。インターネットの普及で新しい種類の仕事も日々増えています。

このように仕事の幅が増えて、いろんなクリエイティブなものが生まれていくのはとてもワクワクします。しかし、演奏家として・アーツマネジメントを勉強している学生として思うのは、人間が直接コミュニケーションをとれる場や芸術の本当の価値を生で感じてもらえる場というのを積極的に作ることが求められているのではないかと感じます。

今の時代ライブを生配信したり、YouTubeで公開することはいくらでも出来ますが、オーディエンスが芸術の豊かさを肌で感じることが出来るイベント、そしてその真価を理解してもらえるようなコミュニティーを作れたら良いなと思っています。