芸術と政治②
前回は、私が芸術と政治について知りたいと思うようになった時のエピソードと、ジャズ教育の中で扱うと良いなと個人的に思う本について紹介した。今回は、ジャズというジャンルにとらわれずにアメリカ国内における「芸術」と「アーティスト」にフォーカスしたいと思う。
(ちなみにこの芸術と政治シリーズは私の思いついたトピックを自分用の記録として随時足していく予定)
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今となっては「自由の国」というイメージのアメリカだが、そのイメージは徐々に形成されたもの。その変化を、年代ごとの特徴とともに(超)簡単に順を追って整理したいと思う。
New Deal Art During the Great Depression
1920年代の始まり
- 生活の質や年収の格差がかなりあった
- 娯楽として、テレビや人気に。
- ジャズは少数派の音楽から大衆の音楽へと変化
- 田舎に比べると、ニューヨークなどの街の発展は著しかった
- 移民の制限が始まった
1930年ー1940年代
- 地位やお金のない人々が政治の発展に影響を与えた
- 世界大恐慌
- WPA(公共事業促進局)の発足
- 共産党
1940年ー1960年代
- 第二次世界大戦後、アーティストはヨーロッパからアメリカへ来ていた
- 冷戦中の外交政策としてCIAによる文化交流プログラムが始まる
The Federal Theatre Project was run by the Works Progress Administration (WPA)
ここでは、私のイメージを書いていますが今後の記事でWPAや外交政策の詳細や人々の暮らしについては触れていきたいと思っています。
アメリカはの政府はWPAの設立を皮切りに外交目的で芸術というツールに着目し、失業者にも目を向けるようになりました。実際、WPAは5年くらいしか続かなかったにも関わらず今でもモデルとして使われており、かなりのインパクトを残しました。
この時代のことを知るのに、とても良かった映画があります。
「Cradle Will Rock」
ティム・ロビンス監督、脚本の映画で1999年に公開されました。
トレイラーはこちら。
失業者が沢山いた世界大恐慌後のアメリカではニューディールの一環として政府がWPA (Works Progress Administration)を設立し、公共事業を実施。そのプログラムの1つにフェデラルシアタープロジェクトというのがあり、オーソン・ウェルズ演出担当の「Cradle Will Rock」が上演されることになる。オーソンはシェークスピアのファンで、3本映画化をしたという。Cradle Will Rock は日本語で「ゆりかごは揺れる」と訳されていて、政府によって中止を言い渡された唯一のミュージカルである。
公演の中止は共産主義的な内容を含むことが原因だったが、それでも何とか実施しようと奮闘する労働者や周りの人々を描く。この物語に平行してメキシコの画家ディエゴ・リベラがロックフェラーに反発してこれまた共産主義的な画を描くが、無残にも壁ごと叩き壊されるという話もある。
芸術を表現のツールとして使うアーティストたちと、芸術を政策のツールとして使おうとする政府。働き口がなくて必死にもがく労働者たちに必要だったのは個人の主張を表現できる機会。だけど、その資金を出していた政府はあまりにも左翼的に流れて行ったこのプロジェクトを止めざるを得なくなってしまった。
実際に公演を実施したシアターのハウスマンが当時の様子を語る映像もあります。
ところどころミュージカル調な部分もありつつ、この時代について知りたい方にはお勧めの作品。私自身もこの映画を久しぶりに観て、最近のアーツマネジメントと政府の関わりについてもっと深く知りたいと思いました。
【オーケストラ経営】 National Philharmonic と Baltimore Symphony
周りのミュージシャンやアーツマネジメントに関わる人の間で、かなり話題になっているNational PhilharmonicとBaltimore Symphonyの経営問題。どちらもコンサートには足を運んだことがあるし、歴史あるオーケストラなのでとても気になる。
どんな会社でも、経営のライフサイクルというものはあってうまく進んで行く時もあれば破綻してしまう時もある。私自身この二つのオーケストラのファイナンシャルステイトメントや新聞記事もまだしっかり読めていないので、今後資料を集めて調べていきたい。(とりあえずメモ用に記事リンクを貼っておく)
National Philは大きな一度の資金援助でその時のピンチは救えるかもしれないけど、長い目で見ると長期的な支援を契約して人々のボランティアワークには頼らないという状況が作れないとこれからの継続は難しいのではないかと思う。$150,000の赤字の裏には何かしら経営側に歪みがあるのではないか。
ちらっと目を通して、この最初のリンクにはGovernment shutdownについて書かれていた。実際にDC・メリーランド・ヴァージニア州のアーツ団体において政府の閉鎖はどの程度影響があるのかが気になる。
芸術と政治①
芸術というのは私達の日常から遠く離れることもできるが、密接することもできる。人間の生活に関係のあるものだからこそ政治や社会の関心が芸術に大きく影響することもある。
私自身、ワシントンDCという政治都市に住むことでニューヨークやニューオリンズ、ロサンゼルスなどとは違う視点でジャズを含む芸術を見つめることが出来ているように感じます。今後、芸術と政治に関わることを少しずつ書いていけたらと思っています。
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2011年の冬にジャズのプライベートレッスンを受けていた先生のスタジオで1枚の写真を見かけた。
それはエジプトのスフィンクスと先生のジャズバンドが写っていている写真。
「あれ、これって?どこかで見たことあるような。。」
と思っていると、先生が「ジャズトランペット奏者ルイ・アームストロングが1961年に外交政策の一環で訪れたエジプトにスミソニアンのツアーで行ったんだよ」と。
私が見たことあった写真はこれ。初めて見た時には、スフィンクスと写っているイカした写真だな~くらいにか思っていなかったのだけど、この時代のジャズと政策について少し教えてもらってから、もっと勉強しようと決意した。
残念ながらジャズを使った外交について扱っている日本語の資料はほとんどみかけないが、2017年に発売された政治学者の齋藤 嘉臣氏による「ジャズ・アンバサダーズ 「アメリカ」の音楽外交史」はここで紹介しておきたい。
この本では、政治学の博士号を持つ齋藤 嘉臣氏が当時「ジャズ大使」と呼ばれていたジャズミュージシャンとその周りの社会状況について詳しく書いています。参考文献の充実ぶりでこの本の真剣さが伝わってくる。
それに加えて「アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで」という本も政治や文化を交えたアメリカの音楽について学べるのでよかった。
せっかくジャズを大学・大学院まで学ぶのなら、学生達にはこういう知識を学ぶ機会もあると良いと思う。日本語での文献は貴重なのでジャズの歴史を学ぶクラスかなんかの課題図書にしても良いくらいだ。
スミソニアンのジャズバンドがエジプトにツアーへ行ったのは、ルイアームストロングが訪れた47年後の2008年。約50年経った今でも同じ音楽を通して交流の場を設けることができるのはすごいことだと思った。
当時のプレスリリースによるとジャズバンドはシンガー・スウィングダンサーと共にパフォーマンスを行い、加えてアメリカ歴史博物館のディレクターだったBrent Glassによるレクチャー「Shedding Light on American History」とジャズキュレーターのJohn Hasse によるレクチャー「Louis Armstrong: American Genius」も行われたようだ。
芸術は社会や政治と共に変化し、今まで積み重なってきたものなのだと考えさせられる。
地球と向き合って 2
少し前に資源を大切に使うことについて書いたけど、今日はそのことをもう少し書いておきたいと思った。
ペットボトルを定期購読するという行為
日本で注目されているらしい、タッチアンドゴーコーヒーやタピオカ、JRの自販機サブスクリプションシステム。
ニュースで見ていて、「なぜ?」としか思えない。
もちろん、出先でタッチしたら飲み物が受け取れるというシステムは人間にとって便利であろう。でも、多くの人が利用する場所で流行りのビジネスモデルを使ってこれ以上プラスチックの飲み物を買うことを促進してどうするのか。
個人レベルで出来ること、例えばマイスプーンやお箸を持ち歩いてコンビニで割りばしをもらわないようにするとか、家を出る前にコーヒーを保温ボトルに入れるとか、エコバッグで買い物するとかは最小限の努力なのであって、実際は個々の地道な努力じゃ賄いきれないようなレベルまできてしまっている。
その逆で、サンフランシスコ空港ではペットボトル入りの飲料水は販売禁止ということになったそう。コーラとかは引き続きペットボトルでの販売をするのだろうけど、ボトルの水も消費量はすごいだろうから、良い動きだと思う。さらに、空港内には100個の浄水器型ウォーターサーバーが設置されるので、手持ちのボトルに無料でつぐことができる。サービスを制限すると文句を言うひとが必ず現れるけど、こういう配慮をしてくれるのは良い取り組み。まあ裏の理由には廃棄ボトルの処理にかかる費用を削減したいということで州が動いているのかもしれないけど、実践してくれるのはポジティブな動き。
Food Textileというブランド
今日のリハーサル中、「みてくれよ」と夏休みに日本でツアーをしていた友達が自慢げにTシャツを見せてきた。優しい色合いのブルーベリー色のTシャツ。どうしたの?と聞くと日本しったブランドの理念が気に入ってオンラインで買ったそう。
調べてみると「Food Textile」といって、食料廃棄物を再活用するプロジェクトとして誕生した人にも環境にもやさしいアイテムを売るブランド。斬新なアイディアが粋だなと思ったし、コンセプトも明確でかっこいい。
好みは人それぞれだけど、シンプルでこだわりの詰まったお気に入りの服を集めたいなと思わせてくれた。
Gourmet Symphony -地域の食材と音楽をつなぐ-
このように、食が絡むコンセプトになぜか惹かれてしまう私。
先日のライブは、Gourmet Symphonyという非営利団体が主催するコンサート。普段はクラシックメインでやっている団体ですが、ジャズの雰囲気も入れたいということで一緒に演奏する機会を頂きました。
"GS strives to break the conceived boundaries of traditional concert experiences by developing programs that expertly pair locally-sourced cuisine and custom beverages with classical music selections, creating a unique multi-sensory experience that brings to life historical, cultural, and sometimes hidden connections in each program." -Gourmet Symphony Concept
彼らのコンセプトは本当に素晴らしいと思いました。お堅いクラシックコンサートのイメージを取っ払って、季節を感じられる地域の食材と音楽を共に楽しんでもらう。
ミュージシャンは演奏機会得ることができて、農家さんは野菜や果物を使ってもらえる。レストランは音楽と料理を提供できて、お客さんは楽しめる。新鮮な野菜を日曜市で買う人も増えたと言っていました。地域のコミュニティーに寄り添い、必要なサービスを提供していく。それでいて、満足してもらえるプログラムを組めるような活動をできるアーツマネジャーが必要だと感じます。
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アマゾンの森林の火災について「人間の空気が減ってしまう」とか「実は大丈夫らしい」とかネットでは色んな情報が出回っているけど、それに左右されてしまうのではなくて自分で調べて確かな知識を身に着ける努力をしたい。
「人間の生命があぶない、だからどうにかしよう」じゃなくて、人間は自然によって生かされている部分もあるのだから、共存のためのやさしい気持ちを持てないのだろうか。
ドックスクール終了
犬日記になりつつあるこのブログ、毎週通っていたドッグスクールが終わったのでひとまず落ち着きそうです。(次回はアーツの話題に戻ろう、、)
昨晩は、ベーシックトレーニングクラスの卒業試験。
少しでも集中してもらえるように、いつもより多めのお散歩と遊びの時間を設けて挑んだわけですが、スクールに着くと落ち着きのない犬。
大丈夫かな~とドキドキしていたのですが、なんとノーミスで全ての項目をクリア。
1つミスをするごとに減点されていく方式なのですが、うちの犬は本番に強いようで犬トレーニング協会から一位のリボンをもらいました。終了証と一緒に額に入れて飾ってあげようと思います。
最初は吠えたり、走りまわったり注意散漫していたわが子がちゃんと指示を聞いてくれるようになって、うるうるでした。
有り余るエナジーに困り気味だけど、まだまだやんちゃでいて欲しいと思う私は完全に親バカです。
【保護犬日記】飼い主の気持ち
Jazz Girl's Day DC
今年3月30日に開催された、Jazz Girls Day DC。その様子をアップし忘れていたので、今更ですが書き残しておこうと思います。
アメリカには様々なジャズの団体があり、それぞれのミッションを元に活動しています。対象としている年代も目的も違いますが、個人的によく耳にするのは「ジェンダー・人種」に対する活動。もちろんジャズの団体に限ったことではなくて、国全体でよく話題になるトピックです。
現在、ジェンダーや人種についての多様性に配慮したアプローチは年々増えていて、アーツマネジャーとして芸術の世界を動かすうえで、すべての関心対象者に公平な場を設けることは1つのプライオリティだと言えるでしょう。
ジャズの世界
そんな中でジャズを世界の見てみると、まだ男性優位の世界が残っていると言えます。周囲の状況はもちろん、ジェンダーバイアスによって女性が自分の能力を過小評価したり、自信を失う機会があるのが現状です。
日本でもよくありますが、小・中高校生のバンドには女の子のミュージシャンが沢山在籍しているのに、それより上の世代になるとその数は一気に減ってしまうということ。これはアメリカの学校でも同じことが起きていて、高校のジャズバンドでは女の子のサックスプレイヤーがずらーーっと並んでいるのを見かけるのに、大学生のバンドとなると紅一点状態。
私もその状況に居た一人で、高校生の時は女子が沢山いるジャズバンドで演奏していたのに大学生になったら周りには男子のみ。
アメリカが築き上げたアートフォームとしてのジャズを若い世代に伝えていくためには、ジャズ教育を通してこの現状を変えていく必要があります。
Jazz Girl's Day DC
そんな状況を変えて行こう、ということで動きだしたのが、Jazz Girl's Day DC。トロンボーン奏者であり、ジャズの教育にも携わるShannon Gunnをリーダーに2019年に設立しました。はじめの一歩ということで、2011年からジャズシーンの女性にスポットライトを当ててきたWashington Women in Jazz Festivalの協力を得てイベントを開催することに。
主な対象者は、小学生から高校生でジャズに興味のあるミュージシャン。ジャズを演奏したことがなくても、楽器で音が出せれば誰でも大歓迎。
(公式HPより)
当日のタイムスケジュール
①ジャズの歴史や有名なミュージシャンの紹介/女性プロミュージシャンによる演奏
②楽器を使ってジャズの基礎を学ぶレクチャー
(簡単なジャムセッションを体験)
③楽器ごとに分かれて、個別レッスン
④セッション
⑤レクチャー:音楽の世界で自信を高めていくために
⑥学生バンドの演奏と講師演奏
今回のイベントでは参加者の皆さんに「ジャズって楽しい音楽なんだ」「自分にも出来るんだ」という気持ちを少しでも感じてもらえるように、敷居を低くすること・他の学校にも同じように女の子のミュージシャンが居るということを知ってもらうことを目標にしました。
この一日だけでジャズのソロが簡単に吹けるようになるというものではないけど、各楽器のプロ講師から間近で本物の音を聞いてもらったり、女の子のミュージシャン同士友達になったりして、何かを感じ取ってもらえればと思います。
イベントを開催するにあたり、Jazz Education NetworkとHerb Alpert Foundationが寄付をしてくれたことに感謝。
最後に、企画やソーシャルメディア、当日の運営を担当した三人。
来年もこのコミュニティーを広めていきたいと思います。